東欧史研究会2021年度6月例会(2021年6月12日:オンライン開催)にて、宇野が「クロアチアにおけるセルビア人内部の対立と第二次世界大戦の歴史認識(1990-1991)」という題目で報告を行った(内容は、宇野が2020年度に東京大学大学院に提出した修士論文の一部成果に基づくものである)。
報告の目的は体制転換期におけるクロアチアのセルビア人の政治的志向を読み解く点にあった。その際、第二次世界大戦時に見られたナショナリズムの急進化を巡る「歴史の語り」を通じて民族関係が再構築される過程に分析の焦点があてられた。よく知られる通り、大戦時に枢軸国陣営の占領下に置かれたユーゴ地域では、民族解放を先導したパルチザン以外にも、ウスタシャやチェトニクといった各々クロアチア民族主義またはセルビア民族主義を掲げる勢力が台頭していた。ユーゴ紛争時にはその歴史が振り替えられると同時に民族間対立が再燃することになった。この経緯を考慮すれば、紛争へと向かう1990年前後の言説空間について精査することには大きな意義があると言えるだろう。宇野報告はその歴史的見地に即して、クロアチアのセルビア人内部の政治姿勢の多様性を抽出しながら、当時の言説空間の実態解明に取り組むものであった。 フロアとのディスカッションに際しては多くのコメントがあがり議論が活発化した。例えばクロアチアのセルビア人の政治的立場を示すために設定された「分権派」「穏健派」といった用語について、両カテゴリーは具体的な社会階層と結びついているかという質問に対しては、前者は地方、後者は都市を支持母体とする傾向が一部見られる、という回答が寄せられた。また議論の前提となるような、先行研究を踏まえた本報告の意義の在処、現在に至るクロアチアの民族問題を巡る歴史認識の構築、クロアチアのセルビア人が政治的パフォーマンスとして歴史認識を開陳していた可能性についても質疑応答が為された。(門間) |