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街中のステッカーを探してみる(ザグレブ編)

2/2/2025

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Picture(撮影:2022年10月12日)
筆者は2022年9月から2023年7月まで、ザグレブ大学の研究生としてクロアチアの首都ザグレブに滞在していた。その間に様々なステッカーやグラフィティ、落書きを街中で目にした。この記事ではそれらの一部を紹介したい。

​​このオレンジ色の球体は、ザグレブの中心部にあるザグレブ大学音楽アカデミーの前に設置されたモニュメントの一部だが、落書きやステッカーで埋め尽くされてしまっている。なかでも日本語話者の目をひときわ引くのは、球体の中央上部に貼られたステッカーだろう。ザグレブの街のあちこちで見かけるこのステッカーは、イタリアのステッカーアーティストMerioone氏の作品である。同じステッカーが東京を含む世界各地の都市で発見されている。



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(撮影:2022年10月12日)
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(撮影:2022年10月21日)
Picture(撮影:2023年4月12日)
さまざまな店が立ち並ぶ中心部の通りで、建物の壁の下部にひっそりと描かれたグラフィティも見つけた。
​2018年7月16日は、この年のサッカーワールドカップで銀メダルを獲得したクロアチア代表チームがザグレブで凱旋パレードを行った日付である。ザグレブの中央広場に位置し、ザグレブのシンボルでもあるイェラチッチ像とともに、代表チームを熱狂で迎えた市民のようすが描かれている。

​政治的なメッセージが前面に打ち出されたものも多い。ザグレブを歩いていると、フェミニズム的なステッカーや性的マイノリティの権利を擁護する主張のステッカーがあちこちで見られた。写真中央のステッカーには、「すべての戦争に反対する すべての政府に反対する すべての抑圧に反対する」という文言とともに、鳩が鷹と戦っているイラストが描かれている。そのすぐ下のステンシル風のステッカーには、「愛は愛だ」という文言とともに、女性どうし、男女、男性どうしのカップルを示す記号が描かれている。

Picture(撮影:2023年6月7日)
​このステッカーには「私の身体、私の選択!」という標語が記されている。このスローガンは、自分の身体についての決定権は自分自身が持つべきであるという考えを示すものであり、長い歴史をもつ。ただし2022年6月に米国の連邦最高裁判所で「ロー対ウェイド判決」が覆され、中絶が米国憲法上の権利として認められなくなった。同決定に抗議する人びとが上記のスローガンをあらためて掲げたことから、この言葉は当時世界的に脚光を浴びていた。

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(撮影:2022年9月29日)
アナーキズム的なメッセージを打ち出すステッカーもたびたび見られた。上に示した「すべての政府に反対する」というステッカーもそのひとつだと考えられるが、ほかにもいくつかのバージョンがある。​このステッカーでは、女の子のイラストとともに「ママ、わたしも大きくなったら国家、資本主義、家父長制に反対する!」というセリフが記されている。また、ステッカーの右下にはアナーキズムのシンボルであるⒶというマークがかたどられている。
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(撮影:2023年2月27日)
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​この写真は、記事の冒頭で紹介したオレンジ色の球体の写真をトリミングしたものだ。中央上部に、黒地に白い文字で「ナショナリズムと戦争の壁の向こう」という文とともに、Ⓐのマークが描かれたステッカーが貼りつけられている。また、写真の左下にも黄色いペンでⒶのマークが描かれている。

一方で、ザグレブでは反フェミニズム的なステッカーを目にすることもあった。このステッカーの中央の女性は、ジェリカ・マルキッチである。マルキッチは「家族の名において」(U ime obitelji)という団体の指導的人物のひとりであり、クロアチアでは広く知られた反ジェンダー活動家である。2013年には、クロアチア憲法で婚姻を「男性と女性のもの」であると明記することを求める署名運動がマルキッチの団体などによって行われた。この運動では約75万筆の署名が集まったとされる。署名を受けて2013年末に行われた国民投票で憲法改正への賛成票が多数となったことから、同性婚が憲法上明示的に禁止されることとなった。

Picture(撮影:2023年7月3日)
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Picture(撮影:2022年11月19日)
極右的なメッセージが込められたステッカーや落書きも存在する。写真中央の「WPWW」は「ホワイトプライドワールドワイド」という白人至上主義者の標語の略語であり、「88」は「ハイルヒトラー」の隠語である。また、上部の落書きにみられる「U」と十字架を組み合わせたようなマークは、20世紀前半に存在したクロアチアの極右民族主義組織ウスタシャを示すシンボルである。

またこの落書きではウスタシャのシンボルとともに「ZDS」というアルファベットが書かれているが、これは「祖国のために備えよ」(Za dom spremni)というウスタシャが用いていた掛け声を意味している。 



Picture(撮影:2023年5月1日)

​​ これはネオナチのロックバンドである「No Remorse」が発表したアルバムのジャケットを模したステッカーである。そのほか、まれにではあるものの、「セルビア人を殺せ」といった非常に直接的なヘイトスピーチや、ナチの鉤十字の落書きを目にすることすらあった。


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(撮影:2023年5月12日)
上に紹介したステッカーや落書きは、いずれもおそらく無断で貼り付けられたり描かれたりしたものだが、許可を得たグラフィティが描かれている場面も目にした。 ​
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​(撮影:2023年3月10日)
市の中心部に位置するザグレブ美術アカデミーの建物に、大きな壁画が描かれている。大きな荷物を背負った人々を描いた壁画の下には、「#ザグレブは難民とともにある」という文字とともに、ザグレブ市の市章、UNHCRのロゴマーク、Festival of Tolerance JFF Zagreb(寛容フェスティヴァル—ユダヤ映画祭)のマークが記されている。この壁画はストリートアーティストのボリス・バレ(Boris Bare)氏の作品で、NGOの「寛容フェスティヴァル」の主催、ザグレブ市とUNHCRの共催によってこの企画が行われた。
https://festivaloftolerance.com/2022/news/zagrebjeuzizbjeglice 
 
ザグレブに限らず、ヨーロッパの都市では多くの落書きやステッカーを目にする。ただ通り過ぎるのではなく、それらに込められた意味を読み解こうとしてみると、作り手のさまざまなメッセージやその都市に存在する社会問題を知ることができるだろう。
 
(文責:宇野)
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